【特許(審決)】PBPクレームから製造方法への訂正を認めた訂正審決

平成28315日(訂正2016-390005)(審判官:丹治彰(審判長)、黒瀬雅一、藤本義仁、吉村尚、千葉成就)

 

(審決要旨)

請求項1を、「基材と、発泡シリコーンゴムからなる弾性層と、表層とをこの順に有し、該発泡シリコーンゴムは発泡剤としてシリカゲルを含む液状シリコーンゴム混和物を発泡および硬化させて形成したものであることを特徴とする電子写真装置用の熱定着装置に用いられる定着部材。」から、「基材と、発泡シリコーンゴムからなる弾性層と、表層とをこの順に有する、電子写真装置用の熱定着装置に用いる定着部材の製造方法であって、該発泡シリコーンゴムを、発泡剤としてシリカゲルを含む液状シリコーンゴム混和物を発泡および硬化して形成することを特徴とする定着部材の製造方法。」に訂正することを求める訂正審判請求が認容された。

 訂正の目的は、「明瞭でない記載の釈明」である。

 実質上拡張し、又は変更がないことについては、@訂正前後の発明の「課題」が同じであること、及び、A訂正後発明の「実施」に該当する行為が、訂正前発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないことが認定されている。

 

(コメント)

本訂正審決は、PBPクレームから製造方法への訂正を認めた初めての審決である。

 特許庁が、「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの、『物』の発明から『物を生産する方法』の発明へのカテゴリー変更を含む訂正であっても、一律に訂正が認められるものではなく、事件ごとに個別に判断されますので、ご注意ください。」とアナウンスしているとおり、個別の事案において、上記@Aを検討する必要があるが、“カテゴリー変更”自体を理由として「実質上拡張し、又は変更」とは判断されない運用となったことにより、既に特許化されているPBPクレームの明確性要件違反を克服する途が開かれたと評価できる。

 もっとも、本審決は事例肯定審決であり、一般的な射程が不明確である以上、依然として個別具体的な事案における実際のチャレンジが必要である。今後、肯定・否定審決例の集積や否定審決に対する取消判決などにより、一般的な規範が定立されることが望まれる。

 

 

(審決の抜粋)

(1)訂正の目的について

…「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号))と判示されている。…

 訂正事項1は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前請求項1を、「基材と、発泡シリコーンゴムからなる弾性層と、表層とをこの順に有する、電子写真装置用の熱定着装置に用いる定着部材の製造方法」として、「発泡シリコーンゴムを、発泡剤としてシリカゲルを含む液状シリコーンゴム混和物を発泡および硬化して形成すること」を特定する訂正後請求項1に訂正するものであって、「発明が明確であること」という要件を満たすものである。

 したがって、当該訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

 

ア 発明が解決しようとする課題とその解決手段について

…訂正前の本件特許明細書の段落【0008】~【0011】の記載から、訂正前請求項1発明の課題は、「長期にわたって使用した場合にも、定着部材の弾性層の硬度の低下を小さくする」ことであり、その解決手段は「発泡シリコーンゴムからなる弾性層」について、「発泡シリコーンゴムを、発泡剤としてシリカゲルを含む液状シリコーンゴム混和物を発泡および硬化させて形成」することである。

 一方、訂正後の本件特許明細書の段落【0008】~【0011】の記載から、訂正後請求項1発明の課題は、「長期にわたって使用した場合にも、定着部材の弾性層の硬度の低下を小さくする」ことであり、その解決手段は「発泡シリコーンゴムからなる弾性層」について、「発泡シリコーンゴムを、発泡剤としてシリカゲルを含む液状シリコーンゴム混和物を発泡および硬化して形成」することである。

 してみると、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明における課題解決手段も、実質的な変更はない。

 したがって、訂正後請求項1発明の技術的意義は、訂正前請求項1発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。

 

イ 訂正による第三者の不測の不利益について

…特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(訂正前請求項1発明)及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(訂正後請求項1発明)の実施について比較する。

 「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。

 すると、「物の発明」の実施においては、物の生産方法を特定するものではないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。

 そして、訂正前請求項1発明は、「発泡剤としてシリカゲルを含む液状シリコーンゴム混和物を発泡および硬化させ」るという製造方法(以下「特定の製造方法」という)により「定着部材」という物が特定された「物の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「定着部材」に加え、前記特定の製造方法により製造された「定着部材」と同一の構造・特性を有する物も、特許発明の実施に含むものである。

 一方、訂正後請求項1発明は、上記特定の製造方法により「定着部材の製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「定着部材」を、特許発明の実施に含むものである。

 したがって、訂正後請求項1発明の「実施」に該当する行為は、訂正前請求項1発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、訂正前請求項1発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。

審決本文 

 

文責:弁護士・弁理士 高石 秀樹(第二東京弁護士会)

本件に関するお問い合わせ先: h_takaishi@nakapat.gr.jp